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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

1/16号

『特集:炸裂する特朗普(トランプ)爆弾』
  1. トランプを中国語で記すと「特朗普」となるらしい。今年はこの三文字が躍動することになろう。新年早々から「特朗普」氏の発言が世界を揺るがしている。5日、トヨタ自動車がメキシコに新設する工場について、自身のツイッターに投稿、「NO WAY!!=あり得ない」「高い関税を払え」と批判し、計画撤回を求めた。
  2. 当初は楽観論が大勢だった。「メキシコからの輸入車に高関税をかければ、(メキシコからの輸入が多い)ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターがたちゆかなくなる」との思惑だった。だがその楽観論は、3日にフォードがメキシコの工場建設を撤回したことにより吹き飛んだ。次に矛先が向かったのがトヨタだった。
  3. 日本企業と世界の自動車産業の代表格であるトヨタは、「米国第一主義」を訴える露払いには格好の標的ではあった。しかし自由主義経済社会においてトランプ氏の一連の発言は、“介入”というよりは“企業妨害”と呼ぶべき暴挙であろう。
  4. 自分の思うがままに個別企業の戦略を動かし、米国に投資させる。大統領にとっては強権の醍醐味かもしれない。だが世界の企業は、同氏の縁故主義の高まりやロシアとの密約懸念も相俟って、連発する奔放発言に「予見不可能な米国」を意識し始めた。
  5. 「偉大な米国の復活」を標榜するトランプ氏への期待はそれなりに大きい。しかし大衆迎合的な公約や常識はずれの言動は、米国内真っ二つに割ってしまっている。富裕層と貧困層、白人層と非白人層、支配者層と被支配者層、保守層とリベラル層…。様々な形で社会の分断が深まり、容易に修復できそうにない。
  6. 多様な人間が集う米国は、偽悪な差別や偏見を「パンドラの箱」に封じ込めてきた。その蓋をこじ開け、偏ったナショナリズムの封印までも解いてしまった。米国に内向き志向が強まればどうなるかは、これまでの歴史が証明している。
  7. 今後10年間で4兆~5兆㌦の減税と1兆㌦のインフラ投資。一連の財政出動は、金融緩和に依存してきた米経済を底上げする可能性は秘める。市場が浮き立っている。だが債務の膨張を招く巨額の減税やインフラ投資が計画通りに動き出す保証はない。保護貿易や移民排斥が具体化すれば、財政出動の効果などは木端微塵である。
  8. 米国には古くから孤立主義のDNA息づく。「怪物を退治するのに、敢えて海外に行くことはない」。第6代大統領のクインシー・アダムズの(国務長官時代の)有名な言葉である。しかし時代は変わった。米国抜きの世界経済は考えられない。
  9. NYダウ株価は20,000㌦を目前になかなかクリアできない。2009年6月6,469㌦から始まった長期の上昇相場は6,469㌦×3=19,407㌦を超えた。以降は“神の領域”である。現状の株高・ドル高に“根拠なき熱狂”を感じる。日本風に言えば“神ってる!”。トランプという劇薬を投じた米国。2017年は大嵐の様相である。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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