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4/03号

『特集:ポスト真実(Post Truth)』
  1. 現在の住まいから両国国技館まではチャリで15分。国技館近辺には昼から営業している飲み屋が多数あり、昼食兼ねて軽く飲って、末席も末席の最安価な最上段で、ほろ酔い気分で幕下あたりから相撲観戦する。桜が終わった後に隅田川を吹く五月の風がまことに心地よく、帰りは酔いを醒ましながら帰る、というのが密かな楽しみだった。
  2. その大相撲がいつの間にか超人気になって、満員札止めが続くようになった。相撲はもはや日本ばかりでなく、国際的な人気である。当日券も手に入らない。格段構えることなく、散歩ついでに国技館に寄り、相撲を見るという“芸当”ができなくなった。
  3. 大阪での春場所。表彰式で君が代の大合唱の途中から、稀勢の里は涙でくしゃくしゃになった。13日目の日馬富士戦で左肩を痛打し、怪我には強いと定評のある稀勢の里の、苦痛にゆがむ表情を初めて見た。強行出場した14日目は鶴竜になすすべもなく寄り切られた。まともな相撲を取れる状況ではなかった。それが千秋楽に、怪物大関・照ノ富士に、本割と決定戦で2度勝利したのである。紛れもない奇跡だった。
  4. 2001年夏場所、膝の大怪我を押して強硬出場し、優勝した貴乃花は、その後7場所連続休場に追い込まれ、再び賜杯を抱くことはなかった。優勝した事実をもって今回の稀勢の里の強行出場を「正しい選択だった」とは言い難い。だが感動は、往々にして「正誤を超えたところ」で生まれる。それもまた真実ではある。
  5. 最近、英オックスフォード大出版局が2016年の「今年の言葉」に選んだ単語、「ポスト真実」が盛んに言われ始めた。客観的な事実よりも、「感情や個人的信条への訴えかけの方が世論形成に影響がある」ことを指すという。英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票と米大統領選挙で、英国民が離脱を選び、トランプ大統領を誕生させ、その後双方間違いだったと考え始めている、という状況を「ポスト真実」と位置付けるのである。
  6. 「死なばモロトモ?」と揶揄される日本を騒がす森友学園事件。野党は「安倍昭恵首相夫人が名誉校長の小学校の開校を延長したら、役所は首相に恥をかかせることになると考える」と指摘し、一方安倍首相は「忖度(そんたく)の事実がないのにまるで事実かのように言うのは典型的な印象操作だ」と反論する。
  7. 忖度。広辞苑は「他人の心中をおしはかること」とする。しかし実際に使われる際には「力を持つ上の者の気持ちを先取りし、機嫌を損ねぬよう処置すること」ことになる。今回の森友学園事件は「重層的な忖度メカニズムが」働いたと見るのが順当だろう。
  8. 29日付の日刊スポーツは、稀勢の里をモチーフにした錦絵版画がベネチア芸術展に出品され、好評だと伝えた。なぜ白鵬でなく稀勢の里なのか。多分ある意味常識をはずれた稀勢の里の行動が純日本的に映ったのだろう。「勝つしかない」とする、単純明快なメカニズムが海外でも評価を得たと思われる。救われるような、清々しい気持ちでいる。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
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FAX:03-5573-4857


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