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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

4/10号

『特集:カルロス・ゴーンの流儀』
  1. ルノー・日産アライアンスの総帥、カルロス・ゴーン。1954年3月9日生まれ63歳。レバノン系ブラジル人。フランスで教育を受け、欧州・米国、そして日本の自動車産業で成功を収めたことはご存じの通りである。
  2. 巷間では同氏は、日々の業務管理や、キャッシュフロー経営に厳格と言われている。一方で、同氏の掲げる長期投資や事業戦略が欧米のビジネス界で研究対象になっている。根幹の方針にブレがなく的確だからである。社内の猛反発の中で進めた「中国進出と成功」や、リーマンショックでも止めなかった「電気自動車開発」がその代表例である。
  3. 車には「移動価値」「体感価値」「所有価値」の3つの価値があるとされてきた。だが、グーグルやアップル等のIT企業の新規参入で、「(複数で保有する)カーシェアリング」や「ライドシェアリング(乗合い)」の普及拡大は必至で、テーマが徐々に陳腐化し始めた。結果的に自動車業界は、限られた販売台数をテーマにせざるを得なくなった。
  4. 最近のカルロス・ゴーンの最大のアジェンダ(論点)は、「IT(情報技術)と自動車融合」。IT技術の進捗により、世界の自動車需要は現在の6割程度まで減少すると予想され、また大型車が得意の米の自動車生産が半分以下に減少する予想されている。
  5. 産業界全体をみても、人工知能(AI)の進歩を背景に、既存産業(=既得権益)を揺るがす破壊的技術(ディスラプション)が生まれ易い状況にある。自動車業界に関しても、自動運転車が中心になれば、自動車産業から多分野に流出するのは止めようがない。自動車産業もやはり100年に一度の転換期を迎えているのである。
  6. かくして今年1月、カルロス・ゴーンが仕事始めに向かった先は恒例のデトロイトの自動車ショーではなく、シリンコンバレーだった。日産が米航空宇宙局(NASA)と進める自動運転の共同実験の視察だった。
  7. 米大統領に就任したドナルド・トランプが、日本の自動車市場が閉鎖的との議論をし、為替問題を蒸し返し、大型車の多い米国自動車メーカーに配慮した燃費規制の緩和策まで検討している中で、カルロス・ゴーンは、「政権が変われば政策も変わる。それだけのことだ」と、泰然自若としていたのは当然だった。国内回帰を志向し、アナログな車の生産や、反グローバルを叫んだりしても、結局は失敗するとの確信があった。
  8. 16世紀以降の大航海時代を経て、東インド会社、蒸気機関などを中心としたグローバル化やイノベーションの潮流は誰も止められなかった。「国内回帰」を最大のテーマに、時代に逆流するトランプ流儀の運命は言わずもがなであろう。
  9. 日本では巨象・東芝の行く末が憂慮され、連日の大報道である。だが過去の遺産に凝り固まる指導者が、既得権保持に汲々としているにしか映らない。「従来の常識が非常識」の時代。時代の大きな潮流を見定めて先に行くしかない。それは時代の要請なのだろう。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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