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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

4/24号

『特集:宅配クライシス』
  1. 現在の住まいから徒歩30秒の距離にヤマト運輸(ヤマトホールディングズ=通称・クロネコ)の支店がある。現住所に移ってから20年超が経過したので、20年超の付き合いとなる。出来高制給与体制とはいえ、とにかくよく働く。朝は8時前から夜は10時過ぎまで。その日本の宅配の雄が、日本的なサービスにギブアップ状態になっている。
  2. 日本の流通革命の尖兵はコンビニと宅配だった。1980年代後半あたりから拡大し始めたコンビニと宅配だったが、両者の大々的な拡大・進出により、日本の小売が壊滅状態になっていった。徹底的に、完膚なきまで小売りを地方経済から駆逐してしまった。
  3. 24時間営業で食料品から日用雑貨まで大凡が賄えるコンビニという小売システムと、TVの通販番組等で好みの商品を選択・配送してくれる流通システムは、間違いなく画期的であり、“歴史的な”流通革命に違いなかった。
  4. かくしてコンビニが日々の生活の中心になり、ネット通販市場が爆発的に拡大していく中で、商品内容や価格での差異化が難しくなり、行き着いた先が「当日配送」だった。「注文から最短2時間半で届ける」という極端なサービスが恒常化し始めている。
  5. 確かに「配送の時間帯サービス」は便利である。「午前中」から始まり、午後は2時間おきに5時間帯に区分されている。だが日本の宅配システムは「相手に直接手渡してサインをもらう」ことで完了する。結局は希望の時間帯に不在の場合も多く、配達する方は何度も足を運ぶことを余儀なくされる。
  6. 最近ではコンビニや一部ファストフードが調理品、端的に言えば“(昔の)出前”サービスも始めている。食品には「鮮度のリスク」がある。特に夏場は怖い。すしやラーメンやピザなどはともかく、セブンイレブンやデーニーズに出前を頼むかねぇ??とは思うが、高齢化社会で、結構需要があるらしい。
  7. ヤマト運輸の場合、年間の取扱荷物は19億個。そしてそのうちの「当日配送」のアマゾン関係の荷物が約2割の3億個。アマゾンの当日配送は夕方の便で大量に持ち込まれる。午後5時に仕分けされれば配達の残り時間は4時間を切る。そしてクロネコの平均単価が570円台に対し、アマゾンは300円を切ると言われている。
  8. かくして人手不足は深刻化し、ヤマトは未払い残業代200億円を払い、減益となり、アマゾンの取引から撤退した。米国ではロボットやドローンに置き換える計画が進んでいる。「盗難補償より再配達の時間の方がコストがかかる」との論理である。
  9. 高齢者向けの食品を中心とした“ソフト商品”の即日配送は致し方ないにしても、電化製品や家具などの“ハード商品 ”に「即日配送」は本当に必要なのか。日本は“おもてなし”を“売り”にする国である。ドローン中心の時代は間近。だが、時代が変わっても「過剰なサービスを無理押ししない」という日本的なやさしさが必要と思うが…
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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