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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

6/05号

『特集:Sontakuに揺れる日本事情』
  1. 5月29日のプロゴルファー・宮里藍の引退記者会見。相変わらず言葉遣いが上手く、完璧だった。大きな引退理由は「モチベーションがなくなった」だったが、それは言い訳だろう。選手生活15年、世界一にもランクされた彼女は、一生困らない資産形成が終わったと見るのが順当だろう。そして31日は関脇・髙安の大関昇進伝達式。「正々堂々精進します」。表現的には少々ちぐはぐだが、素直さやヤル気は伝わった。
  2. 何故に両人の挨拶がスッキリと心地よかったかと言えば、最近日本で大流行りの「忖度=そんたく」が全くなかったからである。蕎麦屋じゃあるまいし、昨今の安倍首相は、「もり=森友学園」と「かけ=加計学園」で大わらわである。かくして「忖度」という表現は、今年の流行語大賞のベストテン入り確実の様相である。
  3. 「忖度」はアジア的な言葉である。中国最古の詩集とされる「詩経」にも登場する。つまり中国文化圏では3000年前から「忖度」が行われていたことになる。最近の中国では国民全員が習近平の意向を忖度するのも、つまりは中国古来の伝統である。
  4. では日本ではどうか。日本は基本的に単一民族であり、ムラ社会は同一の価値観で動く。従って、あえて言葉にせずともお互いに察することが求められた。言ってみれば「忖度」は日本の美徳であったのかもしれない。
  5. 日本文学も忖度で成り立っている。和歌のように短い文章に豊かな意味を持たせるためには受け取り手の想像力も必要となる。俳句はもっと短い。かくして受け取り手は詠んだ人の気持ちを忖度しなければならないことになる。
  6. 忖度を英訳すればどうなるか。「read between the lines=行間を読む」「conjecture=推測する」「surmise=推量する」あたりだろうが、「空気を読む」という感覚が説明できず、いまひとつしっくりこない。結局はそのまま「sontaku」に落ち着いたようである。
  7. 森友学園問題が表面化した段階で、一部週刊誌は「加計学園問題」を取り上げ、一連の忖度問題は、長期政権を目指す安倍内閣を倒す大事件に発展する可能性を伝えていた。特に加計学園問題に絡む「前川(=前川喜平・元文科省事務次官)の乱」は、元高級官僚が政府に反旗を翻す構図になっており、簡単に収まりそうにない。
  8. 事務方の頂点・事務次官になるには艱難辛苦のたゆまない努力と運が必要と思われる。それが就任して半年もたたないうちに天下り問題で引責辞任させられたこともあって、ラグビー選手上がりの同氏の本気度・熱気度は相当なものに見える。
  9. 「あったものをなかったとするわけにいかない」「赤信号を青信号とは言えない」とする同氏の論理は、正当である。正当であるがゆえに、話をややこしくしている。長いものにまかれるか、腹切り覚悟の合戦の継続か。一般人にとっては別世界の話であり、聞いているだけで疲れる。今更ながら、霞が関ムラの生活はたいへんと思うばかりである。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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