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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

6/19号

『特集:数の力の限界』
  1. “もりかけ(森友学園&加計学園)”問題が収まらない中、「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を強行採決する動きで日本が揺れている。14日から15日にかけての徹夜国会は、野党側が閣僚への問責決議案・不信任決議案を連発、最後は内閣不信任決議案を出したりしたものの、結局は政府与党の強力(ごうりき)に押し切られた。
  2. ただ百人が百人、誰が見ても明らかなのは、金田勝年現法相が、法務大臣たる資質に欠けている点であり、それを承知でというより、法相がノーガードであることを盾に、きめ細かく論議することなく、無理矢理押し切ろうとするスタンスだった。“裏に(説明できない)国際的密約がある”と思われても致し方ない展開だった。
  3. 一方、政官民の関係で、違法性を問われる境目は「政治家が職務に関連した権限を行使し、見返りに民間側から金品を受け取っている場合」である。しかし“もりかけ”問題については「首相が見返りを得た」などの情報はない。つまりは今回のもりかけ問題に根本的な違法性がないのだ。それが野党が突っ込み切れない最大の原因だった。
  4. 一連の問題の根幹にあるのは、「安倍1強」の政治状況だった。安倍政権の“数の力”が支配する中、平成14年に発足した内閣人事局が、部長・審議官級以上の約600人の人事を、これまでの各省主導から官邸による一元管理にしてしまった。
  5. 結果的に各省庁が、これまで以上に首相の意向を想定しながら業務に取り組むことになった。過度で無理矢理な対応を迫られることもまた必然の流れではあった。各政務分野に詳しい「族議員」が健在な時は、政策決定過程で様々な議論があり、情報も出てきた。現状では重要な過程がブラックボックス化しているのである。
  6. 安倍政権は、小泉政権を抜き戦後3位の長期政権となった。そしてその長期政権となる過程で、看板の政策を次々に目新しいものに切り替えてきた。“骨太の方針”はそのショーウインドと化した。結果、10年後、20年後の日本に何を引き継ぐか、全く見えなくなっている。巷間で「見えない化」現象と揶揄される状況に陥っている。
  7. 当然ながら現在の若者世代に絶望感が広がり、今の生活が楽しめればいいという安直な考え方が蔓延し始めている。一方で、負担増を嫌う高齢者が高投票率で政治を動かす「シルバー民主主義」が日本を支配し、皮肉にもそれが安倍長期政権を支えている。
  8. 野党が予想以上に弱体化する中で、もりかけ問題も、共謀罪の論議も、憲法改正論議も、全ては高支持率を維持する安倍政権の“数の力の論理”のライン上にある。つまりは高い支持率を背景にした慢心は否めない。安倍政権自体が徐々に陳腐化し始めている。
  9. 今回の一連の強行突破が国民にどう映ったのか。失望感は明らかである。注目の都議選が間近い。小池都知事の「結論を出し渋る政局ファースト主義」にも飽きてはきているが、とりあえず結果に注目したい。安倍長期政権のエンディングは近いと思う。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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