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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

12/05号

『特集:読売巨人軍の内紛に見る日本の企業統治』
  1. 1960年~70年代、「巨人、大鵬、卵焼き」というキャッチコピーが流行った。日本国民の誰もが好きという意味だった。ご多分に漏れず、自分は巨人軍・長嶋茂雄にあこがれた。その背番号3を、例えば風呂屋や学校の下駄箱の番号に競って追及した。
  2. 巨人軍は、(富山県出身の)読売新聞の初代社長・故正力松太郎が創設したプロ球団である。毎日、朝日新聞が中等・高校野球をバックに購買部数を伸ばしたのと同様の論理で、読売はプロ野球を推進していった。読売巨人軍は、プロ野球の盟主として君臨するに至るための、いわば“(読売の)広告塔”の役割だった。
  3. 今回の内紛は、巨人軍コーチ人事を巡り、清武英利・球団代表兼ゼネラルマネジャー(GM)が、渡辺恒雄球団会長を批判し、解任された“(単なる読売内部の)ゴタゴタ”である。清武氏は解任はコンプライアンス(法令順守)違反を隠蔽するための報復措置であるとして、訴訟を提起する構えである。
  4. 元々ゼネラルマネジャー(GM)とは、米大リーグで使われ始めたポジション(人事的地位)である。その基本的な役目としては、選手・コーチ・監督の人事権ならびに関連予算の編成・執行権を行使することにある。GMが一度決めた人事を、オーナーが“鶴の一声”でひっくり返すことはあり得ない。
  5. 一方、チームの敗退の責任はGMがとることになる。今回の騒動の中で、清武氏は自らの責任について一度も語っていない。清武氏はコンプライアンス(法令順守)違反云々を言う前に、GM制度を理解していなかったことになる。
  6. ただ清武氏は犠牲者と言えなくもない。日本の球界は素人に球団の編成やGMを任せている。親会社から球団に来て実権を握り、マスコミに囲まれる。そうするうちに自分を野球の玄人と思い込むようになり、まるで監督かオーナーになったような気になる。
  7. まして読売巨人軍は(往時のような絶対的なものではないにしろ)依然として人気球団であり、露出度も高く、ごくごく自然に増長してしまう環境にある。そうならないための(人間として)冷静に対処する努力は並大抵ではない。
  8. 今回の騒動が単なる“内ゲバ”かと言えば、それだけの話ではない。日本のプロ野球の根幹に関わる問題をはらんでいる。今回の泥仕合で曝け出されたのは、株式会社読売巨人軍のコポレート・ガバナンス(企業統治)の未熟さである。
  9. 結局、読売グループにとっては、清武氏のGM就任は“人事異動”の一環だった。だから「GMの権限と責任」も、そして「契約年数」も明確にしていなかった。一連の取決めがあれば、(少々残酷な言い方だが)GMの仕事振りが気にいらなければオーナーはクビをきればよかった。クビを切らないなら任せる。単純な解決ができたはずである。

    日本の伝統的な“鶴の一声”が効く世界も、そろそろ限界のようである。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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