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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

8/07号

『特集:「野球なら8回」 -追いつめられる米トランプ政権-』
  1. この7月に行われたワシントンポストとABCテレビの共同調査によるトランプ大統領の就任後半年の支持率は、第二次大戦後最低の36%となった。原因はいくつかある。
  2. 対内的には、まずロシアゲート疑惑。昨年の大統領選挙でヒラリー候補を追い落とすためにロシアと協力したのではないかとの疑惑。この疑惑を捜査していたFBIのコミー長官を突然解任したことで不信感が増幅した。
  3. 次にオバマ前大統領が設定した「医療保険制度(通称オバマケア)廃止」の失敗。米国には国民皆保険制がなく、医療保険に入れない470万人の国民を救おうとする政策だったが、政府の支出を抑えるためとして廃止を主張していた。
  4. 下院では承認されたものの、上院では廃止に反対するが共和党員が続出、「オバマケア廃止法案」の採決を断念、オバマケアは存続することになった。結果、減税の財源に充てることが不可能になり、減税幅の見通しが立たなくなった。
  5. 「メキシコとの国境に壁をつくる」という主張も、財源の当てがなく実現できないままになっている。そして諸般の政策は不成立となる中で、報道関係者に対する暴言が続き、対立が更に大きくなっていることも混乱に拍車をかけている。
  6. 対外的には、TPP(環太平洋経済連携協定)から抜けたことが米国の立場を悪くする大きな要因になっている。挙句はG7が「6プラス1」、G20も「19プラス1」の構図になり始めた。中心になり始めているのは独。アングラ・メリケル首相は「他国を頼りに出来た時代は終わりつつある」と“脱米国”宣言するに至っている。
  7. そして最大の問題は中国やロシアが、「トランプ大統領を称賛しながら、実際には米国には従わないという手法」を習得したことにある。20世紀は大西洋の両岸に位置する欧州と米国に富と権力が集中した「大西洋の世紀」とすれば、21世紀は中国の台頭が目覚ましい中で「太平洋の世紀」になり始めている。
  8. 「一帯一路」という大言壮語も、実は好戦的で孤立主義のトランプ政権の失政で、その実現性が出始めた。思い起こせば、9.11の同時テロ直後の世界は米国に温かかった。国際都市ニューヨークへの攻撃は、グローバル経済の挑戦と受け止められた。ブッシュ大統領の「テロとの戦い」は「反グローバル化との戦い」とも共鳴した。結局、この時が米国の終わりの始まりだったのかもしれない。
  9. 米金融市場では「野球なら8回」との表現がなされ始めている。「大勝しているかに見える米国に何が起きるか分からない」との警鐘である。景気循環調整後のPER(株価収益率)が30倍に近く、中央値の16倍を大幅に上回っている。30倍を上回ったのはバブルだった1929年と2000年しかない。危うし米国。

    かくしてトランプ大統領は、歴史に燦然とその名を残す大統領になりそうである。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
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TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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