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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

10/10号

『特集:スマホが変えた消費性向』
  1. 最近見かけた消費関連データでおや!?と思わせるものがいくつかあったので、羅列してみたい。総務省の家計調査によると、2016年の世帯消費額(1カ月)は310,389円。これは日本のバブル絶頂期の88年(以下88年)の307,204円とほぼ同額。
  2. 16年の交通・通信費が48,947円で88年比57%増。同16年の保健医療費は11,316円で88年比46%増。88年と16年の対比で大きく減ったのが被服・履物費で39%減の13,153円。家電製品を含む家具・家事用品は11%減の10,881円。
  3. 88年に9兆5518億円だった百貨店売上高(通商産業省)が、16年は6兆5997億円(30.9%減)。一方、専門店売上は88年が6兆2219億円から16年が24兆4874億円(271.0%増)。ここ30年で、日本に「専門店が完全に根付いた 」ことになる。
  4. 上記一連のデータから窺い知れるのは、戦後所得水準の上昇と共に「消費は美徳」としての象徴が“有名百貨店での買い物”だった。往時は、三越や高島屋等の有名老舗百貨店の包装紙を見ただけで“高級だ”とのイメージを持たせた。
  5. ところがバブル崩壊を経る中で、急速に台頭してきたのが低価格ながら品質のいい商品を提供するユニクロ、青山商事、良品計画などの新興の専門店だった。銀座を例に挙げれば、銀座界隈でメンズ関連商品を買うことが至難になっている。
  6. 1990年夏、世界最大の玩具専門店チェーン・トイザラスは「規模が大きく成長力に富んでいる」として日本に進出した。同じ理由でアパレルの米ギャップ(95年)、化粧品の仏セフォラ(99年)、英スーパーのテスコ(03年)などが追随した。
  7. ところが一連の外資系がここ数年のうちに日本からの撤退を宣言している。その理由は揃って、「バブル崩壊後の日本の消費停滞」を上げている。しかし上記のデータから言えば、支出金額の大枠に大差なく、彼らの上げる理由は単なる言い訳に過ぎない。
  8. こうした一連の消費性向の中で、忘れてならないのはスマートフォン(スマホ)の定着だ。ワンタッチ検索で「安価で、良質で、近場の」専門店がたちどころに見つけることができる。“有名百貨店に行けば何とかなる”との安直な考えを捨て去った。逆に“高いだけの、みかけだけの商品”を掴ませられるリスクを考え始めたのである。
  9. 今後の大きなテーマは「モノ(物販)からコト(サービス)」になるようだ。だが一方で、スマホの代名詞だった米アップルの行き詰まりが明確になってきた。スマホから得られる情報に限界が出始めたからである。スマホの完熟でアップルの時代も終盤模様。

    95年のウインドウズから始まる米国発のIT革命も、アップルの行き詰まりで、次なるターゲットを模索し始めている。今のところはAIを駆使した「EV(電気自動車)」あるいは「自動運転車」だろう。だがここ数年のスピードを考えればそのテーマも10年保つまい。すさまじい急速な変化。順応するのも少々しんどい時代である。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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