■今週の市場展望
著者:青柳孝直
6/04号
『特集:Let’s Make a Deal -トランプ式やっつけ主義に揺らぐ世界-』
- 「鉄・アルミ輸入制限」「エルサレムに米大使館移転」「イラン核合意離脱」「パリ協定離脱」「TPP離脱」「大型減税」。トランプ米大統領が行った最近の施策をランダムに上げてみたが、全て異端のリーダー1人の人為的な決定である。
- トランプ米大統領の行動には3つの法則がある。第1に「相手に二者間の派手なディール(取引)を仕掛けて注目を集める」第2に「過去の政権を徹底的に否定する」第3に「迅速な結論を求める」。こうした一連の流儀は、中国・習国家主席や北朝鮮・金委員長のような絶対的な決定権を握るリーダーのそれである。
- こうしたトランプ流手法が目立つ一方で、浮かび上がったのが「面倒なルールや過去の経緯に縛られ、政治的な決定に時間がかかる」(オバマ政権までの米国が加わってきた)西側の民主主義の手法である。西側諸国が戸惑う(あきれる(!?))のも至極当然だ。
- 目先の雇用増となる鉄鋼輸入制限のように、後にいかなる弊害が生じようとも、「(米国民のためにと)闇雲に仕事をするトランプ」への共感が米国内で出始めている。確かに大型減税がなされた米経済は、表面的とはいえ好調に見える。後にいかなる弊害が生じるかを考えないトランプ式に、眉をしかめる者もいれば、賛同者もいるのが実情だ。
- その実、トランプ政権への支持率は40%そこそこ。格段、上がりも下がりもしない。絶対的・安定的な数字ではない。ただ米朝会談で「成功」を収め、中国から貿易面で譲歩を引き出したと印象つけられれば、支持率上積みの可能性は否定できない。
- 大統領に就任以来この4月まで、ランダムに発信してきた“情報=ツイート”は3千件を超えた。驚くべきことは、ランダムに発信される大統領のツイートを、直接・間接に見聞きする米国民は74%に及ぶとする世論調査もある。正しいか、正しくないかは別にして、大統領の発信を“楽しみ”にしている米国民は多いのだ。
- こうした米大統領の下で大きなリスクが二つある。まず、米国が自ら築いた世界秩序をないがしろにすればするほど、その修復は困難になる。二つ目は世界の至る所での武力衝突発生リスクである。トランプ自身、過去の発言に縛られる傾向があるからだ。
- ただこのリスクは、トランプ政権が1期で終わればリスクは軽減される。一方で、仮に「歴史的な成果」の追い風を受け、2020年に再選されることになれば、世界は民主主義の崩壊リスクと、中露のような第三勢力の脅威に晒されることになる。
- 「自国優先」を掲げるトランプ大統領が誕生してから、米国が営々と築き上げてきた戦後の秩序が崩れ始めている。政治の世界に「make a deal」というやり方があっていいのか。世界も、そして西側や中露のような新興勢力も、勿論日本も、政権トップの動向で揺れ動いている。従来のように「米国を頼り、そして信じていいのか?」。現在の世界は、トランプ式やっつけ主義に右往左往する、(世紀初めの)不安定な時期にいる。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。
連絡先:
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書籍紹介
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ISBN:978-4-86280-068-8
定価:1,365円
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ISBN:4-89346-913-4
定価:2,520円