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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

6/18号

『特集:アメフト事件が誘発する「大学の質の低下」問題』
  1. 日本人の大半は、国技・相撲の世界に「かわいがる」という隠語があるのは知っている。本来の意味とは正反対の、厳しい稽古に名を借りた制裁やいじめのことである。日大アメフト部には同じような隠語があった。「はまる」という言い方だ。
  2. 関東学生連盟の調査により「白いものを監督が黒と言えば黒」「どんな理不尽でも実行するのが掟だった」のが明らかにされた。閉鎖社会では意味のない暴力が存在し、それを指す独特の隠語が生まれる。日大アメフト部は、そうした閉鎖社会ではないかと薄々とはいえ思われていた。平成から新時代に移ろうとするこの時期にも、である。
  3. 現代の組織における欠かせないスキルは危機管理能力である。それを高等教育にいち早く取り入れ、危機管理学部を創設したのは日大だった。「エキスパートの育成を目指す」が謳い文句だった。余りにピッタリの、まさに笑えないギャグである。
  4. 第二次大戦で世界に怖れられた日本の特攻隊。建前は志願制だが、実態はほど遠いものだったようだ。生還する者は「次こそ死ね」と言われ続けたという。「20歳そこそこの青年が絶対的権力を持つ上官の命令に背いて生きる」のは想像を絶するものだったろう。
  5. 今回のタックル事件は「相手を潰せ」と命令されたとされる。特攻隊の論理と同じである。練習を干し、選手自らが反則するように追い込んだ。繰り返すまでもないが、戦争から70年以上も経過した、現代の大学での話である。
  6. 内田正人前監督は日大附属病院入院中に、常務理事の職を辞すと発表した。ただ、相撲部の総監督でもある田中英寿理事長は日本最大の学校法人・日本大学の頂点に君臨したままだ。結局、一連の(暗黙の)権力・利権構造には何らの変化もないのだ。
  7. 自分が受験生だった頃、日本大学は、“ポン大”と呼ばれていた。格段の受験勉強をすることなく“誰でも入れる大学”との蔑称だった。ただ芸術学部と理工系・航空学科は“別物”とされるに至り、蔑称はしなくなってはいった。だが、「大学の頂点にいるべき学長が理事長の下」という組織形態が露呈するに至り、問題が大きくなった。
  8. 多分それはたまたまだとは思うが、今回のタックル事件以降、諸般のマスコミが「日本の大学の質の低下」を特集し出した。最近掲載されたテーマが「痩せる『知』」。日本の大学の「論文の生産性」で、100位以内が東大(94位)・京大(98位)・東北大(99位)・東京工大の(100位)4校になったと、嘆いてみせた。
  9. 何かにつけ面白おかしく論じるマスコミの論調は不変だ。一部運動部の騒動で、日本の大学の質云々を論ずるのも早計だし、筋違いだろう。ただ今回のタックル事件は、日本全体の根本に抱える課題の象徴ではあった。学生主導で、9連覇中のラグビー・帝京大学、箱根駅伝4連覇中の青山学院の例もある。やればできる、任せればやるのだ、現代の若者は。日本版NCAA創設を含め、根本的な修正をするには絶好の時のように思う。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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